園長の部屋 公園だより

心配と期待

 昨年はイルカ問題で騒がしく、今年は何もない…というわけではありませんが、ほぼ一年ぶりにこの欄を更新することになりました。申し訳ありません。

 あまり興味のないことは新聞紙面に出てもやニュースになっても右から左と抜けてしまうものです。誰も同じことなのですが。私たちはこの業界にいるものだからやはり動物関係のニュースに目がとまります。最近では「動物園、大丈夫?」なんていう論調のものも散見します。野生動物の入手困難な環境(もちろん環境の悪化もありますし、公衆衛生上の問題もあります)による動物園運営の難しさでしょう。例えば今飼育している動物を維持するだけだと動物園の動物の高齢化は避けられません。特にこの20年は海外から特に野生動物の宝庫と思われていたアフリカや東南アジアなどいわゆる熱帯地方からの動物はどの種でも非常に輸入が困難です。ワシントン条約しかり、人との共通伝染病しかりです。

 しかしながら、悲観することばかりではありません。よく言われるように「危機がチャンス」でもあるのです。では危機をチャンスにするためにはどのようなことが必要なのでしょうか。「温故知新」、「敵を知り、己をらば百戦危うからず」。

 私たちは今を精査することなく流されています。そのため同じところをぐるぐる回る常同行動(動物園の動物でも観察されますが)を思考的に行っています。いわゆる「常識」です。通常はこの「常識」を疑いません。しかし自らの行動を変化させるためにはこの「常識」を疑わなければなりません。「動物園とは一体なんなのか?」。この問いに応えられなければ動物園の未来はありません。動物園が日本に到来し130年を越えます。が、未だ日本国の文化とは言えずにいるようです。つまりこの動物園という概念に対する確固とした哲学がないのです。哲学なしには信念を確立することはできません。

 以前、日本動物園水族館協会はゾウの飼育を間接飼育(ゾウと同じ空間に入らないように飼育することです)を提唱したことがありますが、未だ多くの動物園(100%近い)では直接飼育を行っています。この到津の森公園のゾウ飼育も同じです。ではなぜ間接飼育を進めようとしたのでしょうか。現在、海外の動物園ではゾウの間接飼育が当たり前のように行われています。特に欧米の大型の動物園ではそうです。実はこれには伏線があります。かつてチンパンジーも個別で飼育され、観客に見せることはなくても、自分に危害を加えないためにと調教と称して訓練をしていました。しかし、現在ではこの到津でもそうですが、群れで飼育されるようになり以前のような調教は無くなりましたが(群れの中に直接入れないためです)個別の訓練は行っています。これが最近のハズバンダリーとかオペラント条件付けといわれるトレーニングです。チンパンジーは寝室の檻越しに自分の腕を差し出し注射もさせます。これで麻酔という侵襲的な行為がなくても診断できるようになりました。ではそのようなトレーニングはゾウでは無理なのでしょうか。決してそのようなことはありません。どのような動物でも可能だといわれている位ですから。

 つまり、日本の動物園でゾウが直接飼育から離れられなかったのは、実はその飼育場(寝室を含め)の狭さからなのです。強制的な躾はひょっとしたら暴力的なのかもしれません。誰でも痛くされると命令を聞かざるをえませんからね。私たちはそのようなことをしたことがないと断言できるでしょうか。手かぎは何のために腰にぶら下げているのでしょうか。身を守るためにと言いつつ無理強いはしなかっただろうか。ゾウの気持ちを理解できていたのだろうか。

 もしゾウが自らの意志で自由に飼育員とコミュニケーションできるようになれば、何頭ゾウがいたとしてもその管理は難しくなく、しかもあなたは何頭も赤ん坊のいるゾウ群れを見ることができます。今、チンパンジーの群れを見てるように。そのために必要なものはなんでしょうか。物理的な広さもしれません。もしその物理的な広さが確保できないとしたら、私たちはゾウを飼ってはいけないのかもしれません。水族館でクジラが飼えないように。

 このように考えた時に初めて自分の動物園が見えてきます。「自分の園の強みはなんなのか?」、「誰に何をもって何を伝えたいのか」、「何を共に考えようとしているのか」。

 綺麗ごとだけではなく自らの汗を流しながら共に歩く姿勢が動物園に求められ、危機を乗り越える姿もそこに見えてくるはずです。

 動物園はそれぞれに立場を異にしています。だからこそ生き方も違うのだと思うのです。どこそこの誰それの真似をしてもあなたは同じ姿にはなれません。またなってもいけません。それが個性ですからね。誰でもないそのあなたが素敵なはずです。

 

  

 

 

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