到津の森公園

名誉園長の部屋 公園だより

絵本と動物園

「なんだよお、あまり関係ないじゃん」と言わずにお聞き下さいな。

 

毎年8月16日、熊本県の山鹿市で恒例になった「仮面行列」というイベントがあります。絵本作家たちによるリレーイベントで紙のお面を作って市内をパレードしようというものです。

そのイベントに私の友人で絵本作家のあべ弘士が来るというので、面会かたがた山鹿に出かけました。

午後一時から五時まで旧酒蔵の倉庫のようなところで数十人の親子が仮面を作ります。思い思いの仮面ですからお化けがあったり、アニメの主人公があったり、動物であったり様々です。

会場に行くとあべ弘士は彼の新しい絵本「ふたごのしろくま」にちなんでシロクマの仮面を二個作っていました。

五時からはそのお面をかぶって市内の大通りまで仮面音頭を歌いながらの行進です。四つ角の足湯の公園で解散。

暑い中みなさんお疲れさん。また来年ね。

と、しかし、このイベントが今回のお話ではないのです。

 

作家さんたちのリレーイベントですから来年はあべ弘士の紹介者が担当することになります。その方は三重県四日市で子どもの本屋「メリーゴーランド」を経営している増田喜昭さん。といっても絵本を好きな方以外にはあまり馴染みのないお名前かもしれません。実は私も全く面識がありません。お名前はあべ弘士からは何度も聞いた方で、今回、山鹿に行ったのはこの増田さんに会うことも重要な目的でした。

あべ弘士に似て痩せた、そうあべ弘士と双子やあと言ってもいいような風貌の方でした。

その夜、関係者で打ち上げです。あべ弘士としか関係のない私も参加させていただきました。

この打ち上げ時に増田さんが言われた言葉に思いを馳せたということが今回の主題です。

関係者の打ち上げですから少しはお酒も入るし、言いたいことも言える場です。そのなかであるスタッフの方がこのように言われました。「今回はあべさんの原画展も一緒に開催でき、原画の美しさに触れられてとても良かった」と。増田さんはこう返しました。「原画は確かにいいものであることは認めるけど、それは作家が語ろうとする全てではない。絵本は絵に言葉が加わってこそ完成する。それこそが絵本で、原画ではその心まで伝わらない」。言いましたねえ。原画を描いたあべ弘士がそこにいるのに。

このようにはっきりとものが言える人がいただろうか。自分だったら…と考えてしまいました。

しかし、その歯に衣を着せぬ人が今時珍しいから話題にしようと思ったのでもありません。

 

実は彼の言葉から動物園の動物は絵本の原画と同じだなあと思ったからです。

原画だからもちろん素晴らしい。生き生きともしている。しかし・・・、それ以上の感動は伝えられない。もし動物園が絵本であったら。どんな絵本にしたいのか、その原画に誰が文章をつけるのか、それはとても大切なことです。原画に言葉がなければ、ただそれは大きい、綺麗、可愛いで通り過ぎるだけかもしれません。しかし、そこに素敵なコメントがあったら、もっとたくさんの心が伝わる。

動物園という絵本は原画の羅列じゃダメなんだ。

 

動物は飼っているだけでも感動を生むかもしれません。しかしそれだけでは物語とならないのです。

動物に言葉を足して物語にすることこそ私たちがなすべきこと。

今まで、私たちは動物園を物語として見たことはなかった。

そう、私たちは動物園という絵本の作家なのだ。

 

新しい出会いは新しい思いを生むのですね。 

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