到津の森公園

獣医さんのお仕事 公園だより

獣医だより-32-マンタロウのしこり

今回はマンドリルのマンタロウのお話です。

少し前のことになりますが、秋頃にマンタロウの右腋の下にしこりができてしまいました。

犬猫であれば、直接しこりを触ったり、しこりに針を刺したりして何なのかを調べるのですが、マンドリルは直接触ることはできません。ましてや、「ちょっとチクッとするだけだから、じっとしててね」なんてことも急にはできません。外傷からの感染によるものであれば、抗生剤で良くなるはず…ということで、まずは試験的に抗生剤を飲んでもらいました。しかし、良化がみられなかったため、麻酔をかけて切除することになりました。

現在、マンタロウは注射トレーニングを頑張っていますが、まだ、液体を入れるトレーニングまでは進んでいないため、今回は麻酔銃を使うことになりました。

麻酔銃…動物園ならではの方法ですね。麻酔薬を筋肉内に投与したいため、狙うは“大腿部”。ここは筋肉が多く、大きな血管や神経が表面に少ないので、安全です。(↓囲ってあるところが大腿部。モデル:ライ)

モデルライ マーカー.png

私はライオンで麻酔銃を使った経験がありますが、サル類は未経験でした。先輩方から「サル類の麻酔銃は難しいよ~。特にチンパンジーなんて、打たれる場所がわかっているから、手で隠したり、打てない場所(お腹とかは当たってはいけません)を向けたりしてくるからね~。当たっても、怒って針を自分で抜いて人に投げ返してくるから怖いよ~。」

などと、経験談を散々聞かされてきました。

トラやライオンなどは針を投げ返しては来ないですし、大腿部も大きいため狙う範囲も広くなります。それに比べ、マンタロウの大腿部は狭く、手足も器用…。少しでもずれてお腹に当たってしまったら、マンタロウの命が危険です。。。想像しただけで私の胃はキリキリ…。あまりの不安に、処置計画書の麻酔銃担当者欄にこっそり先輩獣医の名前を書いて提出してしまいました。

先輩から、「何事も経験!」と背中を押していただき、腹をくくり直した私。

段ボールをマンタロウに見立てて、何度か銃の練習を繰り返し

いざ本番の日!!

 

麻酔薬の量を最小限にするために、マンタロウには朝一番に鎮静薬を飲んでもらいました。そろそろ効いた頃かな?と予定時間に行くと…いつもとあまり変わらないマンタロウ。。そもそも普段から落ち着いている個体なので、変化がわからないのかもしれません。

いつもの担当者もそばにいるためか、マンタロウは麻酔銃を見せても落ち着いていました。むしろ、心臓バクバクなのは私です。無心で麻酔薬の最終確認をする私↓

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狙うはマンタロウのここ↓

マーカー入り.png

狙いを定めて…『今だっ!!』(実際には2度ほどチャンスを逃しましたcoldsweats01が1発で成功!)

 

ぶすっ

 

ライオンなどは刺さった瞬間に吠えることもあるのですが、マンタロウは特に反応なく。

マンタロウ:「……なんか刺さった…」とでも思っているかのように、冷静に自分で針を抜き、

イラスト.jpg

くんくん針の臭いをかいで、ぽいっとそのまま地面に落とし何事もなかったかのように移動しました。

その後、麻酔がしっかりかかったことを確認し、病院へ運び、ここからはスピード勝負!麻酔時間を少なくするために、チームでそれぞれが同時並行に動きます。

血管確保をして採血。

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と同時に、しこり部分の毛刈り。ややマスクが合わず、タオルでスキマを埋めました。

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なかなか麻酔をかけるチャンスはないため、レントゲン、超音波

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各所の測定も!

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この時は、メーカーさんから生体モニターをお借りしていたので、血圧測定と心電図、酸素飽和度も測れて、より安全な麻酔管理ができました!(やはり欲しいな…モニター…)。

しこりは1個ではなく、別の小さなしこりもありました。それらも一緒に切除。

全ての処置を終えてマンタロウの寝室へ移動し、目が覚めたことを確認し、全て無事に終了しました。

後日、全てのしこりが良性の腫瘤であったことが判明しています。今後も、しっかりと様子をみていこうと思います。

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